ムー大陸の音楽探検

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名曲たちの成績表18〜「We Are The World」

ムー大陸です

 

過去の名曲をチャートアクションから紐解いていく名曲たちの成績表です。

今回は、

 

 

We Are The World

 

 

です。

 

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この曲については皆さんよくご存知だと思います。1985年アフリカ飢餓救済のためのチャリティソングとして制作、発表されたものです。ハリー・ベラフォンテが呼びかけ、作詞作曲はマイケル・ジャクソンライオネル・リッチー、プロデュースはクインシー・ジョーンズでした。

最終的に45名のアーティストにより臨時結成されたUSAフォー・アフリカというグループが歌いました。45名には人気アーティストが多数参加しており、ビルボードヒットチャートにおいては当然のように1位を獲得、4週間キープしました。期間限定企画で、短期間のランクインでしたが、年間チャートでも20位でした。

 

ただ、勝手に選んでおいてなんですが、正直私はこの歌が好きではありません。「名曲たちの」と言っていますが、それ程の名曲かと常々疑問に思っています。ですから、今回はそうした世間的な名曲としての評価に修正を加えつつ、アメリカンポップスの負の側面を考えてみたいと思います。

 

そもそも、このチャリティの発端は前年のクリスマスソング「Do They Know It's Christmas?」です。イギリスのロックバンド、ブームタウン・ラッツボブ・ゲルドフがニュースでアフリカの飢餓を知り、仲間の若手アーティストを集めて、バンドエイドを名乗り、クリスマスに発表したチャリティソングです。

 

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これが同年イギリスで大ヒットします。翌年、アメリカでも発売されましたが、クリスマスソングだったため、アメリカでは時期を逸した発売となり、ビルボードで最高位13位という結果でした。しかし、この運動自体の影響は大で、アメリカでもアフリカ飢餓救済の企画を行おうという機運が高まり実現に至ったのです。

 

ロックはアメリカで生まれましたが、60年代以降多くの新しいロックムーブメントはイギリスから始まりました。パンクロックはアメリカ発にもかかわらず、イギリスでこそ本格化しました。80年代に入っても同様で、そのパンクの連中がニューウェイブと名前を変えて、アメリカのチャートを席巻していました。アメリカで信用出来るのはブラックミュージックだけで、ロックバンドはイギリスの遥か後方を走っている、そんな印象です。

 

勿論、必要性の高いチャリティに関しては追随した方がいいでしょう、しかし、純粋に音楽、企画として考えると、ここでもイギリスが始めてアメリカが追随する、イギリスの先進性が際立ちます。例えば、「Do They Know It's Christmas?」と「We Are The World」のミュージック・ビデオを見て下さい。全く同じと言っていい構成です。ソロシンガーが順々に歌っていく様を追い、最後は全員で大合唱、その際は段になって横並びで歌う。わざとやっている面があるのは承知ですが、同じ趣旨のチャリティだとしてもここまで同じにする必要はあるでしょうか。これは単に真似しただけでしかありません。時間も無い中で作る臨時企画だから、それでよしとしたのでしょうが、時間が少ないのはイギリスだって同様の筈です。

 

楽曲制作担当については当時絶頂期にあったマイケル・ジャクソンライオネル・リッチーです。イギリスに対抗するアメリカはブラックミュージックという図式も不変です。どちらが主導権を有して曲を書いたかは定かではありませんが、後のマイケルの楽曲「Heal The World」などとの共通性を見ると、マイケルが主導だったと考えています。短時間で創り上げた事を考慮すれば十分なのでしょうが、マイケルの作品として考えれば、平均以下と言いたくなりますし、「Heal The World」ほど意匠が尽くされていないように思えて仕方がありません。

 

特に歌詞は頭を抱えてしまいます。サビの「We Are The World    We Are The Children」というのは聴く方が赤面してしまいます。こちらはリッチー氏でしょうか。彼の「You Are」という歌に「You Are The Sun    You Are The Rain」という歌詞がありましたから、そんな風に感じました。実際、どちらの発想かは分かりません。

いずれにせよ、「Do They Know It's Christmas?」が「飢餓に苦しむアフリカの人々は今がクリスマスだと知っているのだろうか」という問いかけであるのに比べて、「私たちは一つ世界 私たちは神さまの子供」という、よく言えばストレート、悪く言うと捻りもなく幼稚な、あまりにもベタ過ぎる歌詞です。勿論、「Do They Know It's Christmas?」の歌詞も、キリスト教徒ではない私などには傲慢に聞こえますから、「クリスマスなんて知ったことか」と応えたくなる面はありますが、そうであっても、イギリスのアーティストの方がクリエイテヴィティに長けていると感じてしまいます。

 

そして、参加アーティストの顔ぶれです。イギリスは若手アーティスト中心です。ボブ・ゲルドフの声かけですから自然とそうなります。ソロを取ったのも当時旬のアーティストばかり、ポール・ヤング、デュラン・デュランサイモン・ル・ボンU2のボノ、ポリスのスティング、カルチャー・クラブボーイ・ジョージなどアメリカでもヒットチャート1位を獲得した面々で、旬で若手だけど豪華です。

それに対してアメリカは必ずしもそうではありませんでした。45名というのも多過ぎる印象です。何故多くなったかと言えば、旬のアーティストだけで構成されているわけではないからです。①旬のアーティスト(当時が全盛期)②当時も売れてはいたが、既にレジェンド③当時は売れてはいないが、レジェンド④微妙、の4パターンに分かれます。ソロを取ったアーティストだけですが、区分します。

ライオネル・リッチー

 マイケル・ジャクソン

 ティナ・ターナー

 ケニー・ロギンス

 スティーブ・ペリー(ジャーニー)

 ダリル・ホール(ホール&オーツ)

 ヒューイ・ルイス

 (ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース)

 シンディ・ローパー

スティーヴィー・ワンダー

 ビリー・ジョエル

 ブルース・スプリングスティーン

ポール・サイモン

 ダイアナ・ロス

 ディオンヌ・ワーウィック

 ボブ・ディラン

 レイ・チャールズ

ケニー・ロジャース

 ジェームズ・イングラム

 アル・ジャロウ

 ウィリー・ネルソン

 キム・カーンズ

こんな感じです。

 

①は85年当時売れていたメンバーです。本当は参加予定だったプリンスにいて欲しかった。当時出始めのマドンナも必要でした。

②彼らは既に地位を確立していました。そして、当時現役で活躍中。残念ながら、ここが強過ぎると、新鮮味が無いんです。正確にはマイケルもリッチーもここに入るでしょう。

③正直、ここは不要だったと思います。いや、確かに凄い面子ですが、新鮮味に欠けます。ちょっと求めているものと違う感じがします。

④みんな実力派ですし、イングラム、ロジャースはヒットも出していましたが、地味です。彼らがソロ取るようではダメです。

つまり、マイケルさえレジェンド級とするなら、①のティナからシンディの6名だけが本当に旬のアーティスト。5年ずれたらいなかったメンバーでしょう。②や③はレジェンドだからいつでも候補になります、なので、逆にタイムリーな感覚が乏しいのです。

ニューウェイブ中心のイギリスのバンドエイドに比べ、旬ではないアーティストが多く、レジェンドたちに頼り過ぎの感が強いです。特にボブ・ディランレイ・チャールズまで呼んで来てしまうと、「そこまで注ぎ込まなくても」という思いが湧いて来ます。バンドエイドにはミック・ジャガーデヴィッド・ボウイエルトン・ジョンポール・マッカートニーらを呼んだりしないのですから。

 

その上、ボブ・ディランレイ・チャールズには長いソロを歌わせます。ディランは微妙ですが、レイのそれは縦横無尽、あんな真似できる人は他にいないでしょう。スティーヴィー・ワンダーのソロもレイと違う味わいで絶品です。やはり、「アメリカの底力はブラックミュージック」を再認識します。それでも、私は後半のソロは全部要らなかったと思っています。7分超えてまで繰り返すって、飽きが来ます、さすがに。通常バージョンは4分程度で、そちらはロングバージョンでやって欲しかったです。そうすると、見せ場が乏しいと感じるなら、やはり、楽曲自体が弱いのだと思います。

 

ただ、そうであっても、それらを臆面もなくなやるのがアメリカのショービズ魂です。イギリスが思い付いたアイディアを真似して、スケールアップし、とことんやり尽くす。終いにはまるで自分たちが始めたかのような顔をする。

勿論、このチャリティを自分たちが始めたとは言ってませんが、やはり、アメリカが動いたことの影響は大きく、この後のライブエイドへの流れは、イギリスだけでは生まれなかったものでしょう。知らない内に、アメリカの存在が大きくなり、中心になってしまいました。

 

それはアメリカンショービズの力技ではありますが、このチャリティの音楽活動で、アメリカにはイギリスのようなクリエイティヴィティが無い事を明確に感じました。特にロックの世界においては痛切に。やはり、第2次ブリティッシュインヴェイジョンの頃ですから、やむを得ないところです。

それが一気に解消するのはオルタナでしょうか、ニルヴァーナの登場まで待つ事になります。逆にイギリスはここがピークで、80年代後半以降は国内へ目を向けて活動するバンドが増えます。

それでは、また。

 

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