ムー大陸です
先頃、宇多田ヒカル氏のデビュー25周年記念のベストアルバムを聴きました。お聴きになった方も多いと思います。あのベスト盤、曲目を見れば、彼女の活動が総括される素晴らしいものと思えます。ただ、周年ベスト盤のあるある要素が詰まった1枚と感じたので、取り上げることにしました。
アーティストが活動の節目でベスト盤を出す、これはよくある話です。ただ、アーティストはベスト盤を出すことを実は快く思っていないと感じることが多いです。アーティスト自身のインタビューなどでもそういう発言が聞かれることはしばしばあります。今回、宇多田氏もベスト盤についての意義を考えていた旨をインタビューで話していました。
アーティストにしてみれば、彼らの1枚1枚のオリジナルアルバムを全て聴いて欲しいというのが本音だと思います。全ての楽曲に思い入れがあり、制作意図があるのだから、編集盤ではなくオリジナルの形で作品に触れて欲しいと願うのは当然でしょう。また、ベスト盤を出す事は金儲け主義に走っていると捉えられると感じるアーティストもいるようです。確かにヒット曲満載のベスト盤は売れます。現に宇多田氏のベスト盤も初動で18万枚と聞きました。オリジナルアルバムでは中々こうは行きませんから、金儲けのためにベスト盤を出したと罪悪感を持っているケースもあるように感じます。
つまり、アーティスト自身は、本音か建前かは判断しかねますが、先ずはベスト盤には消極的であるというポーズを取ります。しかる後、彼らはベスト盤を出す意義を見出そうとします。その意義があるから、音楽的にも素晴らしいことで、金儲けのためではないと言える訳です。同時にレコード会社が強く望んでいるという形を取るのは言うまでもありません。まぁ、それは事実でしょうけど。
さて、そんな時、アーティストが考える意義はこんなものが多いです、
①過去のヒット曲を再録音する
②過去のヒット曲をリミックスする
③過去のヒット曲をリマスターする
④ベスト盤に新曲を収録する
⑤アルバム未収録の過去の曲を収録する
⑥ファンの人気投票で収録曲を選ぶ
⑦ヒット曲を演奏したライブベストにする
例えば、今回の宇多田氏のベスト盤は①②④⑤が該当します。
個人的にはベスト盤に望むのは③だけです。アレンジが不変のまま音質だけが良くなるリマスターは大歓迎です。⑥は結果的に選ばれた楽曲がヒット曲を網羅していれば問題無いですが、小ヒットが漏れたりするのは避けたいので、ヒット曲収録を優先して欲しいです。⑦はベスト盤ではなくライブ盤です。
①②④を意義と考えるアーティストの気持ちは分からないではありません。過去のヒット曲を並べただけのアルバムをニューアルバムとして出すことは、果たしてアーティストとしてクリエイティブなのか?と思うかも知れません。だから、アレンジを変える、ミックスを変える。そして、新曲を加える。あくまで、これはファンの事を考えて彼らが出来る最大限を行おうとしたと前向きに解釈します。
ただ、ベスト盤の意義を考える時、核となるのは、
「誰に向けて出すのか」
であると考えます。
正直、そのアーティストの熱狂的なファンにとってベスト盤は不要なんです。何しろ、オリジナルアルバムを全て持ってますから。だから、アーティストが新曲や再録音を用意するのは、そういうファンに購入動機を与えることになります。ただ、二枚組ベスト盤に新曲を1曲入れるとかっていうのは、さすがにどうかと感じます。ファンは新曲1曲のために二枚組のアルバムを買うのかって話です。それは上記の⑤も同様です。レアなトラックなどとボーナスと称して収録するとかです。私はそういうやり方の方がむしろ金儲け主義だと思います。ベスト盤を出す事より、不要なベスト盤を長年のファンに買わせるそうした戦略が金儲け主義と感じます。もちろん、宇多田氏はそういうところは誠実で、10曲のリミックスと3曲の再録音、ボーナストラック1曲、そして、新曲ですから、往年のファンも喜んで手に取るでしょう。
さて、話を戻します。「誰に向けて」を考えると、それは、
「ファンではない人に向けて」
出すのです。
私たちはみんな忙しいです。仕事や学業に追われ、娯楽だってたくさんある。美味しいものを食べたり、旅行にも行きます。その中で音楽に割く時間はほんの一部かも知れないんです。だから、有名アーティストのヒット曲が全てコンパクトに詰まったアルバムを効率的に聴きたいと思うのは当たり前でしょう。
逆にアーティストは過去のヒット曲を総動員して、今までしっかりと自分の音楽を聴いてくれてなかった人たちを他の娯楽から呼んで来るのです。忙しい中1時間自分の音楽を聴いてもらうんです。それこそがベスト盤の意義だと思います。
その時、初めて本格的にそのアーティストを聴こうとしている人に聴かせるのは「ヒットしたバージョン」でなければなりません。ヒット曲がヒットしたのにはやはり理由があって、再録音やリミックスとは違う何かがあるのです。一種の熱、勢いのようなものを感じるでしょう。再録音の方が歌唱力、演奏技術などが成長していたとしても、ヒットしたバージョンを超えるケースは皆無です。正直、宇多田氏の再録音もそう感じました。なので、熱と勢いを全てぶつけて新たなファンを呼び込む、これが周年ベスト盤でやるべきことだと思います。どうしても再録音したいのなら、ヒットしたバージョンと両方入れるのがいいでしょう。
「Traveling」新録バージョンスペシャルムービー 宇多田ヒカル
「traveling」オリジナルバージョン
アーティストは、何十年もやって来て、たった1枚のアルバムで評価されるのか?とか1枚のアルバムの価値しか無いのか?などと考えるかも知れません。でも、上述の如く、みんな忙しい中、ベスト盤だけでもそのアーティストを聴いてみようと思ったことをむしろ喜ぶべきです。リスナーは馬鹿ではありません、ベスト盤が良ければ、オリジナルアルバムを聴いてみようと思うでしょう。
そのきっかけを作る、アーティストにとってそれこそがベスト盤を出す最大の意義だと思うのだが。
それでは、また。
新曲公開中です!是非聴いて下さい♪
「春に死のう」
「あやかし」