ムー大陸です
私のオススメの歌謡曲を紹介していくビバ!歌謡曲のコーナーです。今回は、
「恋文」
です。
これは1973年の由紀さおり氏のヒット曲です。
「恋文」と言うタイトルだけあって、女性が好きな男性に恋文を認めているという内容の歌なんです。まぁ、正直、たわいもない内容のラブソングです。ただ、曲と詞が巧みに交じり合って非常にいい雰囲気を醸し出しています。
曲は佐藤勝氏です。黒澤映画の音楽で有名ですね。「用心棒」の音楽好きだなぁ。主に映画音楽の世界で生きている人ですから、あまり歌謡曲は書きません。この曲と「若者たち」が代表曲でしょうか。
この曲の素晴らしさは何と言っても「純和風」な感じ。何やら小唄や都都逸のような雰囲気を醸し出し、歌詞の中で恋文を認めている女性が純和風であることを、歌詞を待たずに想像させます。あくまで女性は「ラブレター」を「書く」のではなく「恋文」を「したためる」のだと強くリスナーに印象付けるのです。実に名曲。
しかし、驚かされるのは曲以上に詞です。作詞は吉田旺氏。ちあきなおみ氏への楽曲提供で有名な作詞家です。レコード大賞を受賞した、ちあき氏の代表作「喝采」は彼の傑作の一つ。この「恋文」は「喝采」の翌年ですから、間違いなく彼がのっていた時期です。前年のレコード大賞に続き、この「恋文」で最優秀歌唱賞を獲得しています。
歌詞はこのようになっています、
アズナヴール 流しながら
この手紙を 書いてます
秋祭に 買った指輪
小指に光ります
椅子の上には 赤い千代紙
窓のむこう 昼下りの小雨
何を見ても 貴男様を
想い出して候
熱いココア すすりながら
表書きを 書きました
夢二の絵の少女真似て
矢絣を着ています
床にはらはら 芥子の花弁
窓を染める 雨あがりの夕陽
朝に夕に 貴男様を
お慕い申し候
拙き文を 読まれし後は
焼いて欲しく候
この歌はメロが先にあって後から詞をつけたのでしょうか?そうでないと考えられませんね、このハマリ具合は。「窓の向こう 昼下がりの小雨♪」のところ、「こ・さ・め」はジャストフィット!そこから「何を見ても 貴男様を 想い出して候♪」と展開。最後の「そうろう」が上手く効いています。また、2番の「お慕い申し候」は字余りになっていますから、そこはメロディありきで、由紀氏の歌い回しに任せたのではないでしょうか。
ただ、何とも驚くのが冒頭の歌詞です。
「アズナヴール 流しながら
この手紙を書いてます♪」
ここですね。
アズナヴールとはシャンソン界の大御所シャルル・アズナヴールのことです。つまり、女性はシャンソンを流しながら手紙を書いていると状況を説明している一節です。
純和風なメロであり、それにジャストフィットするこれまた和風な歌詞、「想い出して候」のフレーズにもそれが現れています。ところが、そんな世界観の中いきなり出だしに「アズナヴール」と来るのです。
そして、これは計算してのことか分かりませんが、いや、計算しているだろうと推測していますが、「アズナヴール」と聴こえないのです。
「あずなぶる」と聴こえます。
何を言っているか分かりませんか?つまり、日本語に聞こえてしまうんですよ。いきなり純和風のイントロから歌が始まり「あずなぶる」と言われて、完全にそれが日本語に聞こえてしまう。ただ、聞こえてしまうが意味は分からない。いわゆる枕詞のような位置付け。響き的には例えば、まるで「ちはやふる」と歌われたような感覚に陥る。
ひょっとして吉田氏はそういった和歌の「ちはやふる」のようなフレーズを意識してそれに似た音感を持つ「アズナヴール」を持ってきたのではないか。それをしっかり計算した上でやったのではないかと思っています。何しろ、前年「喝采」では、「黒いふちどりがありました」を計算ずくで当てた人ですから。ここが実に恐ろしいところで、今日この「恋文」を選んでしまった理由です。
2番の冒頭の「熱いココア」には「アズナヴール」ほどの衝撃はありませんが、いい歌詞です。「指輪」「椅子」「千代紙」、そして、「ココア」と続いて、具体的に彼女の姿や部屋の様子が徐々に明らかになります。そして、「夢二の絵の少女真似て 矢絣を着ています」。やはり彼女は和服を着ていたとここで納得です。竹久夢二氏の美人画を思い浮かべて一気にビジュアルが広がります。上手いですね。「芥子の花弁」が散ることから季節は初夏でしょうか。1番の「秋祭」、「熱いココア」と来たので、てっきり冬なのかと思いました。この恋は秋から一冬越えて今は初夏です、半年くらいのイメージとなります。手紙を書き終えると雨が止んで、夕陽の時刻です。素晴らしい描写ですね。
その純和風な歌を歌うのが由紀さおり氏です。
何と言っても、彼女の澄んだ声が雰囲気と合っています。歌謡界での活躍のみならず、姉である安田祥子氏とのデュエットで数々の童謡を歌いこなし、アルバム「1969」ではピンク・マルティーニとのコラボを行うなど幅広い活動を見せてきた彼女ですが、この歌ほど彼女の声とマッチしているのはないと思っています。曲、詞、歌の三位一体です。もうパーフェクトです。個人的には「夜明けのスキャット」「手紙」「ルームライト」よりこの曲を強く推します。
それでは、また。
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「カラキリクルコロ」
「下剋上」
「春に死のう」