ムー大陸です
私のオススメ歌謡曲を紹介するビバ!歌謡曲のコーナーです。今回はこの名曲、
「また逢う日まで」
です。
70年代歌謡曲の最高の名曲は何か?
意見は色々あると思いますが、「また逢う日まで」はそんなアンケートやランキングの多くでトップに立ちます。何故でしょう?今回はこの「また逢う日まで」を通して名曲とは何かという難しいテーマを考えてみたいと思います。
実は、この「また逢う日まで」はカバーなんです。オリジナルはズー・ニー・ヴーの「ひとりの悲しみ」という曲です。元々、作曲者の筒美京平氏がCMソングとして書いたメロディが素晴らしかった為、筒美氏の楽曲管理をしていた村上司という人がこれに歌詞をつけて売ろうとしました。「白いサンゴ礁」のヒットで有名なズー・ニー・ヴーに白羽の矢が立ちます。同曲の作詞者であった阿久悠氏が作詞を担当し、出来上がったのが「ひとりの悲しみ」です。
歌詞のテーマは時代を反映して、安保闘争に敗れた青年の孤独だそうです。聴くと感じると思うんですが、そういう風には聞こえません。内省的な歌なのは分かりますが、安保闘争とか微塵も繋がりません。
結局、ヒットしませんでした。普通ならそこで終わるところですが、再び村上司氏が登場します。この方は余程このメロディに惚れ込んだと見えます。ヒットしなかったのは、
①歌詞が分かりにくかったから
②歌声に力強さが無かった
と考えました。
そして、村上氏は阿久悠氏にリメイクを依頼します。最初は断ったそうです。それは当然です、「ヒットしなかったのはあなたの歌詞が分かりにくいからです。書き直して下さい」と言われて、気分良く応諾する作詞家はいないでしょう。しかし、村上氏は引きません。何度も依頼するものだから、阿久氏も根負けしてリメイクに至りました。そうして出来上がったのが「また逢う日まで」です。
村上氏は力強い歌手として尾崎紀世彦氏を抜擢。彼はテストで見事に「ひとりの悲しみ」を歌い選ばれました。もう何から何までこの村上氏のおかげで名曲は誕生しました。彼の直感は正しかったわけです。
さて、ここまでの経緯を振り返ると、
「また逢う日まで」が名曲なのは歌詞と歌声がキーなのでしょうか?同じメロディなのだから、そこは決定的なポイントにはならないと考えるのが自然です。確かに「また逢う日まで」は別れを前向きに捉えた歌詞が素晴らしい。しかし、名曲か否かの決定的要素が歌詞というのは納得しかねるところがあります。
また、尾崎紀世彦氏の歌声が力強いことに異を唱える人はいないでしょう。ただ、スー・ニー・ヴーでヴォーカルを取っていたのは町田義人氏です。彼の歌声も相当力強いです。「戦士の休息」「赤い狩人」などはパワフルそのものです。
私はやはり「また逢う日まで」が名曲なのは筒美京平氏の曲が一番だと思うんです。だとすると、「ひとりの悲しみ」もヒットしてもおかしくなかったし、名曲ということになります。が、そこはそうではないと考えます。
当たり前の事ですが、曲と詞のバランスが大事なんです。その組み合わせは色々です。明るいメロに前向きな詞、これはありがちですが、定番として説得力あります。その逆明るいメロに暗い歌詞で独特の世界を表現するのも面白いでしょう。
ただ、単なる組み合わせというより大事なのは歌詞はその曲の顔になるという感覚です。ただ合っているだけでは不足と言うか、よくある話です。プロの仕事ならそこは外さない。「ひとりの悲しみ」だって合ってないわけじゃないんです。
音楽である以上曲が優先します。しかし、歌詞は曲の顔、佇まい、風格を与えると思っています。私が自分で詞をつける時には、このメロディをどんな顔にしようと考えます。美しいメロディにハードな歌詞、コミカルな歌詞、意味不明な言葉を並べる、その選択によって随分と顔、佇まいが変わります。自身で作詞作曲するなら、思い通りに作ればいいのです。例えば、ボブ・ディランの「Blowin' In The Wind(風に吹かれて)」はあの美しいメロディに自問自答のような歌詞が付いて、普通のラブソングにはない風格をもたらしたと考えています。
ところが、職業作家はそうはいきません。作曲家は作詞家に顔を預けるのです。
「悲しい色やね OSAKA BAY BLUES」を作曲した林哲司氏はあの大阪弁の歌詞に驚いたそうです。よく言えば意外性、悪く言えば嫌悪感。他者に顔を預けたことにより、予想もしない意外な化学反応が起こることもあるわけです。
「ひとりの悲しみ」は合っていないわけではなかったが、名人である阿久悠氏とて必ず一発で最適な顔を選び出すことが出来るのではない。結局、彼は二度目に最高の顔を見つけたと言えるでしょう。「また逢う日まで」の歌詞になって、歌の顔が変わり、風格が大きくなったと感じます。それは村上氏がこだわった尾崎紀世彦氏のダイナミックな歌のおかげであるし、前向きな別れという歌詞のドラマにも理由があると思います。
そこの微妙な匙加減一つで70年代最高の歌になるか否かが決まることもあるのです。実に奥深い世界です。今日は個人的な感覚の話をしてしまいました。
それでは、また。
新曲公開中です!是非聴いて下さい♪
「下剋上」
「春に死のう」