ムー大陸です
歌の中で性を歌う。
これは一つのテーマだと思います。今も昔も流行歌はラブソングが圧倒的に多く、恋愛は人々の普遍的なテーマです。当然ですが、恋愛が表の顔だとすれば、性は裏の顔。表裏一体ですから、性を歌のテーマと考える事は無理からぬ事でしょう。
ラブソングの中に性が見え隠れするのは当たり前として、より正面から性を扱ったり、過激な表現を好んでやってみるなんて事も少なくないと思います。
ただ、そうした取組も、自身の作品内で完結し、ヒットを前提としないのなら、さほど問題も無く困難を伴わないと思いますが、ヒットし、多くの人々の耳に届くことを想定すると、細やかな配慮の上、作り上げる必要があります。
昭和の歌謡曲とは正にヒットをさせるために作られたものであり、当然、お茶の間に流さなければいけません。その為に過激とも取れるギリギリの愛情表現、ひいては性表現をしてリスナーの想像を掻き立てつつも、規制されては元も子もないので、巧みにそれをかわす必要があるのです。
今となってはコンプライアンスの問題もあり、難しいものもあるでしょうが、昭和はもう少しいい加減、良く言えばおおらかでした。昭和の歌謡曲のプロフェッショナル達はどのようにしてファンの心を捉えたのか、どんな言葉で裏の顔を表に出したのか?それを見て行きたいと思います。
1969年の森進一氏のヒット曲。日本各地の港を歌詞に盛り込んだご当地ソングとしても見事な出来です。海の男は航海に出ると長い間帰らない為、港町は欲望のるつぼです。この頃港町の歌が多い。この歌の歌詞「明日はいらない 今夜が欲しい」。素晴らしいです。夜を欲しいというのが発明ですね。これは歌詞が公募だったんです。補作詞がなかにし礼氏です。どちらでしょう。公募の人なら凄いですね。ちょっとなかにし礼風ですけど。何が言いたいかすぐ分かる一方で、綺麗に誤魔化している。プロだ。
②絹の靴下
今では「UberEatsでいいんじゃない」でお馴染み、夏木マリ氏の1973年のヒット曲です。清純派アイドルとして芽が出なかった彼女がイメチェンしてセクシー路線で再デビュー。なので、歌詞は過激です。玉の輿に乗った女性が性欲を持て余すという内容です。その上流の生活を絹の靴下と呼ぶのが阿久悠氏の上手さです。「上流の気取った生活 私は我慢出来ない」「抱いて獣のように」「裸の私に火をつけて」とギリギリの表現が続きます。当然ですが、「抱く」は常套句です。もちろん、ただ抱きしめる意味で使うばかりではありません。前後の言葉で補完して別の意味にするのです。プロだ。
③ひと夏の経験
これは1974年の山口百恵氏のヒット曲。「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」これが出だしです。いきなりやられます。この時代、「あげる」「捧げる」をよく使います。これだけで何を意味するか分かりますね。その上放送に支障が無い。これ一つの手法です。そして、タイトルにもある「経験」、これにも他の意味を持たせて使います。常套句です。千家和也氏はこういうのが得意です。これをゴールデンタイムに少年少女に向かって流してたんですね。プロだ。
④時には娼婦のように
これは以前に「盗んだバイクで走り出す問題」の回で話しました。1978年のなかにし礼氏の意欲作です。黒沢年男氏の歌唱でヒットしました。
これはある男が愛する女性に対し「娼婦のように淫らな女になりな」と要求する内容。「大きく脚を広げて」「人差し指で手招き 私を誘っておくれ」「自分で乳房を掴み 私の与えておくれ」などかなり過激な表現です。
ただ、「馬鹿馬鹿しい人生より 馬鹿馬鹿しい一時が嬉しい」という一節を入れて、「愛する私のために 悲しむ私のために」と展開します。そうすると、欲望と言うより、世の中に絶望した男、それも初老の金持ちと、その愛人の虚しい遊戯を思い浮かべます。過激な表現を並べた後で、一気にストーリーを別方向に持っていく離れ業です。プロだ。
⑤後ろから前から
こちらは畑中葉子氏のヒット曲です。「カナダからの手紙」の大ヒットで人気を得た彼女でしたが、その後ヒット曲に恵まれず、起死回生日活ロマンポルノ「愛の白昼夢」へ出演します。この歌はそれと同時期に歌手としてもセクシー路線へ変更し発売した曲です。サビの「後ろから前から どうぞ いつでも抱きしめていいの」以外は普通のラブソングです。ただ、タイトルが秀逸です。このフレーズがある為に、「抱く」という言葉が奥行を持ちます。ポルノ映画出演も相まって性行為の体位まで想像させる歌詞になってます。このフレーズが衝撃的だったからでしょうか、後で同名のポルノ映画が制作されました。主演はもちろん畑中氏。作詞は荒木とよひさ氏です。恐るべし。プロだ。
という訳で、昭和の歌謡曲の中の性表現を見てきました。勉強になります。異性蔑視的に使わなければ、今でも通用する表現だと思いますね。それでも最近はこういうある意味悪趣味と思われる挑戦は影を潜めましたね。やはり、コンプライアンス重視でしょうか?
それでは、また。
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「下剋上」
「春に死のう」
「あやかし」