ムー大陸です
今回のテーマはタイトルの通りです、
映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvsビリー・ホリデイ」についての話です。これは2021年のリー・ダニエルズ監督のアメリカ映画です。元々劇場公開用に作られましたが、コロナの影響でそれを断念、ネット公開となったと聞きました。私は先日それをU-Nextで観ました。
予告編
ビリー・ホリデイ、言わずと知れた史上最高のジャズ・ヴォーカリスト、いや、ジャズのみならず世界屈指の女性シンガーです。私も彼女の歌が大好きです。以前彼女の8枚組のボックスセットを買ったことがあります。私にとってそんなアーティストはビートルズとビリー・ホリデイだけです。すみません、どうでもいいエピソードですが、まぁ、それほど思い入れがあると思って頂けると嬉しいです。
さて、そんなビリー・ホリデイですから、過去色んな映画が作られており、私は多少食傷気味なところがあります。と言うのも、正直、どれもそれほど芳しくない出来なのです。ダイアナ・ロスがビリー・ホリデイを演じた「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」が最もメジャーなところでしょうが、あれも私には不向きでした。ドキュメンタリーの方が断然説得力があり、ドラマ物には好きな作品は皆無です。
そこへ今回のこの映画です。期待はしないで観ました。何と言ってもタイトルからしてゲンナリするものですから。この映画の原作はヨハン・ハリの「麻薬と人間 100年の物語」の一部です。その本には麻薬戦争と呼ばれたアメリカの麻薬撲滅キャンペーンについて書かれており、そのキャンペーンの始まりはビリー・ホリデイを見せしめとして逮捕する事でした。実際、アメリカ対ビリー・ホリデイという章があります。それを映画化した訳です。
どこまで事実かは定かではありませんが、この映画でアメリカの政府はビリー・ホリデイの「Strange Fruit(奇妙な果実)」を不穏当な歌、危険な思想だと敵視しています。改めて言うのも何ですが、奇妙な果実とは白人にリンチされて木に吊るされた黒人の死体を指します。血が滴っているのを果汁に見立てた凄まじい歌です。悲惨な黒人差別の実状を告発しています。作詞・作曲はエイベル・ミーアポルという人。ビリー・ホリデイがこの曲を取り上げて一気に知られるようになりました。
「Strange Fruit」 ビリー・ホリデイ
しかし、歌を歌っているだけは逮捕出来ません。そこで、彼女が麻薬中毒であったため、それを理由に彼女を逮捕しようと色々な罠を仕掛けるのです。捜査官を彼女の身近に送り込んだり、スタッフを買収したりします。中には証拠をでっち上げようとまでしていました。
また、映画の中では、当局の長官は自らの出世のために麻薬戦争を実行したのであって、別に麻薬を憎み国民の健康を願って事ではないのです。ビリー・ホリデイは既に名の知れたスター歌手でした。彼女を麻薬で追い詰める事によって、「Strange Fruit」を歌わせないようにする裏取引をしようと試みたのです。併せてそこには黒人は麻薬中毒が多いと示す差別的な意図があり、それを印象付けるためにビリー・ホリデイを狙ったのです。
というのが、アメリカ対ビリー・ホリデイの骨子です。つまり、映画の中で当局が最も恐れていたのは「Strange Fruit」を彼女が歌い、いわゆる公民権運動のような考えが広まる事をだったと言うことです。
ただ、どうでしょう?私にはちょっと胡散臭く思えました。ビリー・ホリデイのところに送り込まれる黒人の捜査官は、後に当局を裏切り彼女と恋仲になりますが、どうやら架空の人物。当時、当局のみならず白人全体に差別意識があったのは間違いないでしょう。差別自体が合法という時代です。ビリー・ホリデイが見せしめだったのも事実だと思います。
ただ、当局が麻薬を憎んでいなかったとか、単に出世のためというのは一方的な人物造形と感じましたし、「Strange Fruit」を取り締まろうとしたのはそこまであの歌を恐怖したからとは思えないのです。途中、当局の嫌がらせで彼女に営業許可が降りない場面がありました。「Strage Fruit」を歌わせない事が目的なら、麻薬云々よりそっちの方がずっと効果的に思えました。
従来、ビリー・ホリデイは「偉大なシンガーだが、酒と麻薬に溺れて早逝した」というイメージでした。この映画はまるでそのイメージが間違いであるかのように宣伝されています。本当は当局の罠だったと言わんばかりです。そこには、公民権運動の魁となった偉大なシンガーはジャンキーではないんだ、それは白人の陰謀なんだと言いたげに感じました。
しかし、実際、彼女が麻薬中毒になったのは当局の謀略でも何でもありません。彼女の生い立ちは非常に不幸で、それを紛らわすために麻薬に手を出した、映画の中でもそういう説明がありました。それが事実でしょうし、それによって彼女の音楽の評価に傷がつくことはありません。
当局はビリー・ホリデイに対して過剰に酷い対応をしています。数回された逮捕の中には不当と呼べるものがあったかも知れません。ただ、それ以上ではありません。当局は麻薬を憎み麻薬撲滅に取り組んでいたのでは。黒人に麻薬中毒が多いのは彼らが不幸な境遇にあった裏返しで決して嘘ではありません。また、当局がそれを取り締まろうとしたのも悪いことではありません。差別意識は別にして、有名人であるビリー・ホリデイを見せしめにした事は、彼女が既に麻薬中毒であったので、戦略として悪くないと思います。
「Strage Fruit」がどれほど公民権運動に影響を与えたのか疑問です。当局が不快に思っていたことは事実としても、あの歌をそこまで恐れたというのはオーバーではないでしょうか。映画の中にこんな台詞があります、「この国は許せないんだ。彼女が強くて、美しくて、黒人だから」。うーん、どうかと思います。彼女は強く、一方で弱かった。いや、人間多くはそうでしょう。私はそんな弱さを持つ彼女だから、麻薬に溺れてしまった彼女だから、地獄のような環境でのたうち回った彼女だから、彼女の歌には心を打つ何かがあるのではないかと感じています。聖人君子にあんな歌が歌えるものか。
極端なビリー・ホリデイ上げと当局下げによって著しく公平性を欠いており、映画自体の説得力を失ってしまったように感じました。惜しい作品です。
ただ一つ、主演のアンドラ・デイは凄いです。遠目には本物のビリー・ホリデイです。いや、映画に遠目も何も無いですけど。歌っている雰囲気や所作など含めて良い味が出ています。ブルースシンガーなので歌も上手く、ビリー・ホリデイの物真似とすれば100点でしょう。
ただ、やはり声の張りとか、晩年であれば枯れ方とかまで含めて、敢えて言いますが、全く違います。根本的にビリー・ホリデイの歌を誰かが吹き替えるのは無理です。なので、本物を使うべきとの意見も制作時にはあったようです。でも、ドラマですから、そこは作りモノで行くのもアリでしょう。ビリー・ホリデイに及んでいない事を否定的には捉えていません。アンドラ・デイは最高のビリー・ホリデイ役だったと思います。
時代の流れでしょうか。ブラック・ライブズ・マターの影響でしょうか。制作側のビリー・ホリデイ上げと私のビリー・ホリデイ観が全く合いませんでした。好きな方には申し訳ありません。どなたにもオススメは出来ません、これは。それでも良ければ、どうぞ。
それでは、また。
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