ムー大陸の音楽探検

ボカロP・ムー大陸が紹介する音楽のアレやコレや

誇り高きジャズ

ムー大陸です

 

 

 

今回はジャズ・ヴォーカルについてのお話です。ジャズ・ヴォーカルって妙な位置付けだと感じませんか?例えば、ロックの世界ではヴォーカリストはバンドの顔。もちろんギタリストも目立つけど、真ん中はヴォーカリストのポジションです。ソウル・ミュージックの世界ではより明確です。バンドではなく圧倒的な歌唱力を持つソロシンガーが多数存在し、それがソウルの醍醐味の一つです。

いずれにしてもスーパースターは圧倒的にヴォーカリストに偏っているでしょう。

 

一方、ジャズではちょっと事情が違う。

もちろん、伝説的なヴォーカリストはいます。ビリー・ホリディ、エラ・フィッツジェラルドなどなど。しかし、決して彼らはジャズの中心ではない。ジャズの正統でもない。その扱いはどこかいかがわしいもののようで、隅っこに追いやられている感じすらする。昔、私はポップ・ミュージックに飽きて、ジャズを聴こうと思ったことがありました。その時ジャズの勉強のためにジャズ名盤100みたいな本を買いました。その本は楽器ごとに名盤を紹介し、最終的に100枚を選んでいました。先ず、トランペットから始まるんです。次にサキソフォン。それから、ピアノと言った具合に、ジャズの中心になる楽器順と思われるような構成になっていました。さすがにベースとかになってくると、その他みたいな括りになっていたと思いますし、ビッグバンドはビッグバンドで一つの項目でした。

 

そして、ヴォーカルは最後なんです。

その本だけじゃなかったと思うんですよ。他にも同じような構成の本を見たことがある。アーティスト別だったとしても、ヴォーカリストは最後に来る。決してトリを務めている訳じゃありません。ヴォーカルはね、ちょっと別ですよ、みたいに収録する。そういう意識が根底にある。

 

基本的にジャズはインストゥルメンタル、つまり歌無し演奏のみの音楽なんです。歴史を遡ってビッグバンドの時代、彼らジャズマン達はちょっとしたオーケストラ並みのバンドを組んで全米をツアーしました。どのバンドにもソリストがいて、彼らが演奏で会場を盛り上げる。カウント・ベイシーデューク・エリントンベニー・グッドマンなどどこのバンドもみんなそうです。残されたレコードもそういう構成の曲ばかりです。全体の演奏の中にソロがいくつか入っています。一つって事はない。

 

では観客達はそうしたソロを期待してバンドを見に来るんでしょうか。もちろん、そういう人も少なからずいたとは思いますが、大半はそうではないのです。実は多くのバンドが専属のシンガー、つまり、ヴォーカリストを雇っていました。何故か?もちろん歌ってもらうんです。そして、それがバンドの人気に繋がるからなんです。つまり、多くの観客はやはり歌を聴きに来るんですね。当然と言えば当然ですが。

 

ただ、オーケストラ、つまり、ビッグバンドの演奏家たちにとっては必ずしも面白くない訳です。自分たちが意匠を尽くした演奏が、独創性に富んだソロが、歌よりも評価されないなんて。やはり、観客は素人だ、ジャズの真髄がそう簡単にわかる訳ない。そんな彼らに対して仕方なくシンガーも用意するけれど、本当に我々が伝えたいのは演奏だ。そんな風にジャズマンたちは思ったことでしょう。ビッグバンドあるあるとして言われることなんですが、シンガーと観客はそのバンドの人気曲の歌詞を知っているが、演奏家たちは知らない。

 

これこそが誇り高きジャズマンたちの思考です。彼らにとって歌は不要なもの、でも商売のために無くてならないもの。そんな不都合なものなのです。だから、どこかいかがわしい存在として隅に置く。今のジャズはビッグバンド華やかな時代とは随分と異なります。それでもジャズの正統はヴォーカルではないという意識は充分残っています。

 

私もジャズにそれほどヴォーカルを期待していないですね。ジャズマンたちの思考に毒されたのかな。

それでは、また。

 

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