ムー大陸です
私のお気に入りに歌謡曲を紹介する
ビバ!歌謡曲です。
今回は、
「喝采」
です
よくご存知の方も多いでしょう。1972年レコード大賞受賞曲。今でも70年代の歌謡曲ベストを選ぼうとしたら、必ず上位に入るだろうし、ひょっとすると、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」と1位を争うくらいの人気ではと思います。
では、何故そこまで人気なのか?それは間違いなく歌詞によるものです。いや、もちろん中村泰士の曲も良い。曲と詞どちらが先か知りませんが、よく合っている。曲はシンプルで落ち着いたメロディ。演歌ではなく上質なポップスです。でも、曲の話はここまで。これで充分褒めました。一方、作詞は吉田旺です。
出だしは、
いつものように幕が開き
恋の歌うたう私に
届いた報せは黒いふちどりがありました
これだけでやられますね。
まず、この歌の主人公は歌手です。
黒いふちどりがありましたって言い方上手い。
つまり誰か死んだんだと先に教える。
続いて、
あれは三年前 止める アナタ 駅に残し
動き始めた汽車に ひとり飛び乗った
はい、これで見えて来ましたね、ストーリー。
彼女には3年前愛し合っていた彼がいた。しかし、彼女は自分の夢、歌手になるために上京した、汽車に乗って。彼は反対だった。上京は彼との愛の終わりを意味していた。その彼が死んだわけです。
続きます、
ひなびた街の昼下がり
教会の前にたたずみ
喪服のわたしは祈る言葉さえ失くしてた
はい、ここで葬式に参列です。故郷かどうか分かりませんが、街に帰って来ました。情景描写です。
これで一番が終わり。
2番の最初が、
つたがからまる白い壁
細いかげ長く落として
ひとりのわたしは こぼす涙さえ忘れてた
はい、ここも情景描写です。
1番の後半と同じ構成です。
●●●●わたしは●●●●さえ●●●●てたというパターンで統一してます。内容的には進展ありません。
で、2場のサビ、
暗い待合室 話す ひとも ない 私の
耳に私のうたが通り過ぎてゆく
もちろん、実際にBGMとして自分の歌が偶然流れていたなんて意味じゃないでしょう。彼を失った悲しみの中で、自分には歌があると決意を新たにしたと受け取りました。
そして、ラスト
いつものように幕が開く
降りそそぐライトのその中
それでもわたしは今日も恋のう歌うたってる
出だしと同じ構成です。つまり、この曲はAメロ→サビ→Aメロというシンプルな構成ですが、歌詞的にはA→サビ→A' A'→サビ→Aという綺麗な循環となってます。美しいです。
そして、ストーリーに戻りましょう。
この主人公は歌手。3年前彼を捨てて歌手になった。その彼が死んでしまった。「それでもわたしは」とはそういう強調なんですが、それだけなんでしょうか?
彼は何故死んだのでしょう?意地の悪い見方をすると、彼女は彼を捨てて良かった。何故なら現在では降りそそぐスポットライトの中で歌えてる、成功したわけです。もし夢を諦め彼との生活を選んだら、その愛の生活は彼の死によって3年で終わったことになります。つまり、彼女は二重の意味で賭けに勝ったと言えます。
但し、彼も彼女と暮らしてたら、死ななかった可能性はあります。ひょっとすると、彼が死んだ原因は直接では無いかも知れないが、彼女との別れにあったことも考えられます。ショックから体調を崩し患っていた、自暴自棄になって荒れていた、悲しみに暮れ自ら・・等色々考えられます。そして、彼女も彼の死因を知っていた。だからこそ、「それでも」「恋の歌うたってる」となるのではと勝手に想像してしまいます。
彼の葬式に行っても、誰も話しかけて来ない。彼の家族と彼女は知り合いじゃないのか?それとも彼に家族はいないのか?彼の家族から無視されてるのか?まぁ、私は彼らはお互い一人だったんじゃないかと思ってます。将来を誓い合って本当は二人で生きていきたかったんです。元々歌は好きだったけど、歌手になるなんてまるで遠い夢だった。ただ、思わぬところから有力なチャンスがやって来たのでは?偉い先生に認められたとかスカウトされたとか。だって3年で成功って早いですもん。そのチャンスを前に彼女は夢を選んだ、彼は彼女を失って少なからず死因にも影響があったと読みます。
身も蓋も無いですが、彼と別れずに歌手にはなれなかったんですかね。彼も反対せずに田舎から応援しつつ遠距離恋愛なんてダメだったのか?って言うか、男関係整理しとけってやつでしょうか、昭和の芸能界らしく。アレもコレも欲しいっていうんじゃ歌に成りにくいのは分かってますけど。
結果、彼女には歌だけが残りました。
「いつものように幕が開く」最後のAメロの出だしです。歌の最初は「いつものように幕が開き」です。たった一文字「き」を「く」に変えただけです。でも、大きな違いです。最初の「幕が開き」は報せが届いた日の特定のステージを描いていますけど、最後の「幕が開く」は葬式から帰って来て最初のステージを描いているわけではありません。歌手としての彼女の日常を描いている。静かな決意や覚悟が感じられる絶品の言い回しです。勉強になります。
そして、タイトルは一度も出て来ていない言葉「喝采」ですよ。職人ですね。惚れ惚れします。
この歌、レコード会社も作曲の中村泰士氏さえも「死を歌うのは不吉」なんじゃないかとの意見だったそうです。「黒いふちどり」はまずいので、書き直した方がいいと言ったそうです。それに対し、吉田旺氏は譲らず、押し切ったそうです。つまり、彼はこの歌を自覚して作っている。偶然の産物なんかじゃありません。そこがまた素晴らしいですね。
それでは、また。
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新曲公開しました。是非是非聴いて下さい!
「楽しんだモン勝ち!」
「鬼火」
「混沌(カオス)」