映画「未知との遭遇」の音楽について

今回は映画「未知との遭遇」の音楽について話したいと思います。

今年の米国アカデミー賞で、特殊視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-0.1」の山﨑貴監督はこの映画を観て特技監督を目指したと言っていました。山崎氏曰く「本物のUFOや宇宙人を見た、まるで宗教体験」とのこと。やはり、映像の世界を志す方はそうした特撮の部分にやられてしまうのです。実は私もこの映画にはかなりやられました。ただ、UFOや宇宙人にではなく、そこは音楽にです。

個人的な極端な意見を敢えて言わせてもらうと、この映画を観て、その視覚効果に目が行くことは自然なこととは思えません。むしろ、音楽に注目する方が当たり前のことと感じます。と言うのも、この映画は音楽で宇宙人と会話する映画だからです。

リチャード・ドレイファス演じる主人公はある晩UFOに遭遇します。それからと言うもの、その事が彼の頭から離れなくなりその行動は奇妙なものになります。彼は彼の頭の中にあるイメージ、これがデビルスタワーという山なんですが、これを実際に形にしようとする。宇宙人から映像が彼の頭に直接送られているのでしょう。家の中に大量の土を持ち込んで部屋一杯にその山を作ってしまいます。当然ですが、妻も子供も逃げてしまいます。近所の目は狂人扱いです。

そして、彼は導かれる様にデビルスタワーへ向かうのです。外からは一見何も無いただの山ですが、そこには政府が設けたUFOとの接触を進めるための施設がありました。遂にUFOが現れ、彼らと人類のファーストコンタクトが始まります。主人公もそこにいました。

さて、いざ、彼らとのコミュニケーションを始めます。何とそれは音楽で行われるのです。劇中何度も登場する5つの音。レ・ミ・ド・ド(オクターブ下)・ソの音を使って会話を試みるのです。私はそれを観て思いました、「何と素敵なんだ！音楽があれば、宇宙人とも話せるんだ」。もちろん、これは映画ですが、そこは山崎監督が言った宗教体験と同じです。これは映画だけど、音楽の力を信じる者にとって実に気持ちのいいお伽話なんです。

この映画の音楽はジョン・ウィリアムズです。スピルバーグ作品と言えば、音楽はこの人です。5つの音で宇宙人と会話するというのはスピルバーグからの発注だそうです。シンプルな音の並びなので、簡単に出来たように思ってしまいますが、何百通りも試してたどり着いたものです。

最初は単純に5音を鳴らすだけでしたが、その内宇宙人の方も同じ音を鳴らして来ます。初めての疎通です。そして、お互い徐々に即興を交えながら、若干複雑な演奏を行い、セッションに至ります。そこにいた人々はみんな微笑んでしまう瞬間でした。個人的にはこの映画の中で最高の場面です。ただ、映画的には、そのセッションが挨拶で、そこからが遭遇の本番となります。

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この宇宙人との接触の一部始終を取り仕切っている博士がいます。何故かヌーヴェルヴァーグの巨匠フランソワ・トリュフォ監督が演じています。その博士は宇宙人に対する知識、愛がハンパ無いです。こんな会見をやり遂げるんですから。

実は、政府はそのUFOに乗って彼らの星へ人を送り込む事を計画していました。言い方は変ですが、留学生の様なものです。数人の軍人を候補として挙げ準備を整え、彼らの前に並びます。ところが、博士は気付くんです、本当に選ばれたのは導かれるようにやって来た主人公なんだと。そして、博士の尽力で彼は軍人と共に列に並び、結果彼が宇宙人の子供たちに手を引っ張られ、UFOへ案内されるのです。

博士は主人公に言うんです、「君が羨ましい」と。痛い程分かります。これだけの会見を成功させるのです、博士は若い頃からずっと宇宙人を学び、調べ、愛していたのです。だから、博士自身が行きたい。選ばれる資格は十分な筈です。でも、選ばれたのは主人公でした。

実はこの映画の中で、主人公がなぜ選ばれたかは明らかではないんです。あの博士を抑えてまで選ばれた理由は一切描かれていません。でも、一つだけ、劇中彼は家族に「映画『ピノキオ』を観に行こう」と言います。自分が子供の時観て感動したから、子供達にも味あわせてやりたいと言うのです。そうです、映画「ピノキオ」の主題歌は「When You Wish Upon A Star(星に願いを)」なんですね。主人公の適性についての詳細は一切示しませんが、主人公がUFOに乗り込む場面で、劇伴が「When You Wish Upon A Star」になるんですね。これだけで表現する、ここも音楽の使い方が抜群です。

最初は普通に歌が流れる計画だったらしいのですが、それだとちょっと露骨過ぎかなと思います。

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