ムー大陸です
今回はタイトル通り映画「悪霊島」の音楽についてです。とは言え、映画の劇伴についてではありません。主題歌及び挿入歌に関する話題です。
この映画の主題歌はビートルズの
「Let It Be」
です。
映画「悪霊島」 予告編
誰かがカバーした「Let It Be」ではなく、正真正銘ビートルズの「Let It Be」が使われました。ちなみに使われたのはシングルバージョンです。加えて、挿入歌として「Get Back」も使われました。
これは大変珍しい事で、少なくとも日本映画では他に例が無いでしょう。ちょっと思いつきません。また、世界的に見ても、それ程多くないケースです。もちろん、ビートルズの楽曲を使用した映画はたくさんあります、それこそ数え切れないほど。ただ、ビートルズのオリジナル盤をそのまま使用した映画はかなり限られるでしょう。
「A Hard Days Night」のようなビートルズの出演映画なら、彼らの作品ですから使用されて当然ですが、その他、ビートルズにまつわる作品、例えば、ビートルズアメリカ上陸時の大騒ぎを描いたロバート・ゼメキス監督の映画「抱きしめたい」、ビートルズのファンクラブ事務局の女性を取り上げたドキュメンタリー映画「愛しのフリーダ」、ビートルズに憧れてバンドを結成する少年たちを描いたノルウェー映画「イエスタデイ」などなど、こうした作品にはビートルズのオリジナル盤が使用されています。
映画「抱きしめたい」 予告編
「愛しのフリーダ」
一方で、ビートルズがいなくなった世界を描いた映画「イエスタディ」は全編多くのビートルズナンバーが使われましたが、オリジナル盤の使用は一曲も無く全てカバーでした。その他全編ビートルズナンバーが流れる映画、「アイ・アム・サム」「アクロス・ザ・ユニバース」なども流れるのは全部カバーでした。各々話題のアーティストによるカバーでしたが。
映画「イエスタディ」 予告編
ビートルズのオリジナル楽曲使用には非常に高い壁があると言われています。簡単に言ってしまえば、壁は二つ。一つはコスト、二つ目は許可の問題です。
真偽のほどは確認出来ませんが、「Magical Mystery Tour」のオリジナル盤を使用した映画「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」では、その一曲を使用するのに100万ドルを支払ったと言います。円安の現在では約1億5千万円です。これはハリソン・フォード氏が語ったものです。一曲使うのにそこまでかかるのです。上述の映画「アイ・アム・サム」の監督ジェシー・ネルソン氏は、企画段階ではビートルズのオリジナル曲を使うつもりでいたけれど、全編オリジナル盤で埋め尽くすと、それだけで製作費が消えてしまうためカバーにしたと言っていました。つまり、金です。第一の壁、リアルに高いです。
しかし、ハリウッドの大作、それこそ「インディ・ジョーンズ」のシリーズなどであれば、ある程度潤沢な予算を捻出出来ると思いますから、第一の壁は超えられる事もあるでしょう。そこに第二の壁です。
第二の壁はそれこそ金で済む問題ではありません。何故その映画にビートルズナンバーが必要なのか?これを問われるのです。上述のビートルズにまつわる映画はその点分かりやすいです。ノルウェー映画「イエスタデイ」はビートルズに憧れた少年たちの青春です、第一あの映画原題は「Beatles」です。分かり易いし、許可も下りやすい。観て分かりませんか?ってところです。「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」などは予算はあっても説明を求められたと想像します。
さて、お待たせしました、そこで本日のテーマ、映画「悪霊島」ですが、これはタイトルからも想像つくと思いますが、ビートルズとは全く関係の無い話です。映画「悪霊島」は1981年公開のミステリー。原作は前年に書かれた横溝正史氏の小説です。1970年代「犬神家の一族」を始めとして探偵金田一耕助を主人公にした横溝作品の映画を大ヒットさせて、出版、映画の世界に革命を起こした角川が、「最後の金田一耕助」と意気込んで製作したのがこの映画「悪霊島」です。監督は篠田正浩氏、金田一耕助を演じたのは石坂浩二氏ではなく鹿賀丈史氏でした。
角川が意気込んで製作したとなれば、第一の壁は問題無く超えたと考えていいでしょう。結果的に二曲使用していますから、予算的にも覚悟を決めていたのでしょう。当時ドル円は220円くらいですから、ハリソン・フォードの言う通りなら、二曲で4億円以上?いや、大体2千万円位らしいです。貨幣価値の問題もありますし。派手なメディア戦略を常套手段としていた当時の角川なら、コストは大きくても、主題歌はビートルズの「Let It Be」と宣伝し、CMを流しまくれば元がとれると計算したかも知れません。
問題は第二の壁です。何しろ、横溝正史氏の推理小説です。悪霊島と呼ばれる瀬戸内の離島で起きる殺人事件、そして、島の人々の過去。それを名探偵金田一耕助が解き明かす。これでは「何故、ビートルズナンバーが必要なのか?」の問いに答えられません。しかし、そこは商魂なのか、本気でそう思ったのか、理由付けをして来ます。
映画公開は1981年、その直前、1980年12月8日にジョン・レノンが射殺されます。この映画は1980年現在を舞台としていて、映画の中にそのジョン・レノンの死のニュースが盛り込まれます。そして、1969年に離島で起こった殺人事件に関わった青年が、当時を振り返るという構成になっています。つまり、ほぼ全編回想シーンという事です。
レノンという巨星が死んだ時から、1969年ビートルズがまだ現役だった時代を振り返る、原作では1967年だったものを1969年に変えています、「Get Back」がヒットした年にしたのは意識的でしょう。ストーリーの中で青年はまだ見ぬ母を探して離島に行きます。ビートルズと離島での事件を重ねて、一つの時代が終わり、青年は自らの青春に別れを告げる、そんな意味合いをビートルズの曲に託しています。
いやぁ、後付けにしてはよく出来た理由です。実際、そういう効果はあると思います。だから「どうしても必要だ」と交渉を行い、遂に使用権を勝ち取ったのです。ビジネス力としては大したものです。
ただですね、確かにその公開当時に曲の背景まで知って映画を観れば、そういう面もあるとは思いますが、言ってしまえばそれだけです。本当に必要だったかと問われれば、私はノーと答えるでしょう。やはり、話題性優先だったと思います。ラストシーン、何となく「Let It Be」が流れていい感じに思えるのは、単に曲が良いからで、別に合っている訳ではないと思います。いや、どちらも好きな立場から言いますと、普通に考えて、横溝正史とビートルズが合うわけが無い、いや、合ってはいけないのです。また、ラストの「Let It Be」以上に劇中に流れる「Get Back」は無駄使い感が大きかったです。ビジネスとしては成功したかも知れませんが、作品上不要でした、破綻していないのは楽曲の力でしょう。
幸か不幸か、現在、配信されている「悪霊島」は別の歌手のカバーに差し替えられています。権利関係の都合でしょう。ビートルズの原盤が使われたのは劇場公開時と最初のビデオくらいだったと思います。マニアの間では高値がついていると聞きます。私は何故かビデオを持っています。そんな苦労して入手した覚えはないので高値でもなかったはず。
U-Nextで配信版を観ましたが、不思議なことに、カバーの「Let It Be」では全然ダメです。カバー盤を歌っているのはレオ・セイヤー。70年代全米No.1も放った一流ですが、ビートルズには遠く及びませんでした。挿入歌「Get Back」のカバーはビートルズのオリジナル盤でキーボードを弾いていたビリー・プレストンです。こちらも妙にブラックなので作品では浮いていました。カバーに差し替えるのだったらいっそ普通の劇伴か日本語の歌にした方がいいと思います。元々、主題歌とは別に湯浅譲二氏が担当した見事なサウンドトラックがありますから。まぁ、そう考えると、やはりビートルズは凄いですね。
ただ、最後に言っておきます、「Let It Be」や「Get Back」はこの映画には不要だと思いますが、この映画「悪霊島」、私結構好きです。横溝正史氏の小説は、70年代に作られた東宝の金田一耕助シリーズを含め数多くの映画、TVドラマになりました。個人的には「悪霊島」はその中でも屈指。名作「犬神家の一族」にも負けないくらいと思っています。
この映画のキャッチコピーは「鵼(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい」でしたが、いやいや、恐ろしいのは鵼ではなく、岩下志麻氏です。この映画の彼女は怖い。そして、美しいです。まだの方は是非一度観て下さい。
それでは、また。
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