ムー大陸です
先日、U-NEXTを何気なしに検索していると、「食人族」という映画を見つけました。
以前に観た事がある作品で、細かいところはよく覚えていませんが、探検隊がアマゾンの秘境のようなところへ行き、原住民の女性をレイプしたり殺したりした結果、原住民に復讐され皆殺しとなり、挙句食べられてしまうという内容でした。その一部始終が探検隊の残したフィルムに収められており、それが発見されたという体のものでした。もちろん、作りものですけど。
実に悪趣味な映画で、こんなものまで配信されているのかと少し驚きました。同時に、以前観るのに苦労した記憶があるので、便利になったと感心もしました。映画は1983年に公開されて、そのグロい映像と、「これ以上はテレビではお見せ出来ません」と言った宣伝文句でそこそこヒットしました。
「食人族」予告編
人間誰しも怖いもの見たさという感覚はあると思います。
暴力、残酷、異形、珍奇、ホラー、エロなどその「怖いもの」は様々でしょうが、見世物小屋の昔から、それらは伝統的な娯楽の一つであった事は間違いありません。1960年代から1970年代にかけて、そうした娯楽の表現者は最早見世物小屋ではなく映画でした。
1962年「世界残酷物語」というイタリア映画が公開されます。監督はグァルティエロ・ヤコペッティ氏。世界の奇妙な風習と現代社会のギャップを晒し、比較しながら「こんな野蛮なものが残っている」と暴き立てたかと思うと、「でも、実はこの文明社会の方がずっと野蛮なのでは?」などと社会派を気取って締め括って見せるのが手法です。上述の「食人族」もそれを受け継いでいて、「人の肉を食う野蛮人がいた」でも、レイプや殺人、どっちが野蛮なんだ?」という問いかけになっています。
「世界残酷物語」
「世界残酷物語」はあくまでドキュメンタリーを装いますが、実際には多数のヤラセや捏造が含まれた過剰な演出によって構成されており、決して社会派ドキュメンタリーなどではなく、安っぽい悪趣味な娯楽映画です。
60年代、70年代、世界は今よりずっと広かった。実際に秘境の類が存在したかは定かではありませんが、情報も映像も少ない時代です。巧みに嘘か本当か見分けがつかないようにしてドキュメンタリーを装うなんていうのはテクニックとして成立しても不思議ではありません。
もちろん、観客も大体それを分かった上で観ます。何と言うか、いかがわしさが滲み出ていますから。そして、そんな映画をある種B級的な親しみと軽蔑を込めて「モンド映画」と呼びました。「世界残酷物語」のオリジナルタイトルが「Mondo Cane」(=犬の世界の意)だった事に由来しています。
さて、ここからが今日の本当のテーマです。
そんな悪趣味でいかがわしい映画でありながら、「世界残酷物語」には一つ特筆すべき点があります。
それが音楽です。
音楽が素晴らしいのです。ヤコペッティ監督の演出なのでしょう、残酷な映像、不快な場面も少なくない本作ですが、そこに全く似つかわしくない美しい音楽をつけたのです。ある意味、このような下世話な映画を最後まで耐えられる理由は、あるいは、2025年の今になって退屈なこの作品を観る価値は、音楽にあるかも知れません。
「More」 リズ・オラトリーニ
音楽を担当したのはリズ・オラトリーニとニーノ・オロヴィエロの二人です。ただ、映画音楽の最も美しい部分を作ったのはオラトリーニ氏です。当然ですが、元々は映画のために書かれたインスト曲です。映画の中で色んな場面で繰り返し使われ、様々なアレンジが施されています。
その後、歌詞がつけられ、イタリアではカティナ・ラニエリ、イギリスではダニー・ウィリアムズ、アメリカではヴィック・ダナの歌でそれぞれシングルカットされました。英語では「More」というタイトルとなり、多くのシンガーがカバーしました。一番有名なのはアンディ・ウィリアムズのものでしょうか。映画主題歌にあざとく飛びつくのが彼らしさです。
「More」 アンディ・ウィリアムズ
1964年には米国アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、同年のグラミー賞では最優秀インストゥルメンタルテーマ賞を獲得します。「More」は古風ですが、スタンダードな名曲としての地位を確立しました。実際に美しいメロディです。出所は関係なく人の心に届いただけのことはあります。
その後も1960年代、1970年代を通じて数多くの悪趣味な「モンド映画」が作られました。「世界残酷物語」については「続・世界残酷物語」も作られました。
何とそれらの「モンド映画」の多くには美しい音楽がついています。「世界残酷物語」の「More」を手本とし、残酷な映像に似つかわしくない音楽を合わせるのを一つの手法と考えたのです。いつしかそれが「モンド映画」の代名詞になります。
「続・世界残酷物語」の主題歌「世界を愛して」を歌ったのは、イタリア、カンツォーネの大スター、ミルバです。予算が増えたのが明らかに分かります。
1968年「フリーセックス地帯を行く〜天国か地獄か」の挿入歌はアレッサンドロ・アレッサンドロー二の歌った「マナ・マナ」。これは後に「セサミストリート」で使われます。「モンド映画」から子供番組へ、異例の転身です。
その他にも美しい音楽が目白押し、詳細は省略しますが「ヤコペッティの残酷大陸」主題歌「Oh My Love」、「裸と猟奇の世界」主題歌「Look Away」なども中々の佳曲です。最初に挙げた「食人族」の音楽も「More」を作ったリズ・オラトリーニが担当しています。モンドの伝統です、全く映画には合っていない美しい音楽です。
今となってはサントラを見つけるのは至難の業かも知れませんが、YouTubeなどで拾っていけばきっと見つかると思います。ここは意外と音楽の秘境かも。
それでは、また。
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