ムー大陸です
前回に引き続きユーロビートの話をします。
前回は総論及び初期の代表作を紹介しました。総論の中で、70年代ディスコ同様、ユーロビートも二重構造だった、すなわち、アメリカ成功組とヨーロッパ特化組に分かれてしたと書きました。
より正確には、ユーロビートはあくまでヨーロッパを中心に売れた安っぽいダンスミュージック、アメリカでは通用していません。ただし唯一例外があって、それがストック・エイトキン・ウォーターマンのプロデューサーチームがプロデュースした作品群です。彼らのプロデュースした幾つかのアーティストがアメリカで成功した事から、結果として二重構造に見えたのです。第2回目の今回は、ユーロビートの中心的存在だった彼らのチームのプロデュース作品について追いかけます。
ストック・エイトキン・ウォーターマン(以下SAW)は、マイク・ストック、マット・エイトキン、ピート・ウォーターマンの3人のソングライティング、プロデュースのチームです。作詞、作曲、プロデュース全てその連名でのクレジットになります。
前回少し触れましたが、アメリカにおけるユーロビートの記念碑的なヒットは1984年デッド・オア・アライブの「You Spin Me Around」です。最高位11位と惜しくもTOP10入りは逃したものの、SAWのサウンドが十分アメリカで通用する事は証明出来ました。デッド・オア・アライブは残念ながら、その後、「You Spin Me Round」を超える活躍は見せられませんでしたが、「Brand New Lover」や「Something In My House」などはいい作品でした。
「Someting In My House」 デッド・オア・アライブ
SAWの人気というか、ユーロビートの人気を決定づけたのは1986年のバナナラマによる「Venus」です。これはオランダのロックバンド、ショッキング・ブルーのナンバーワンヒットのカバーで、オリジナル同様、米国ビルボードチャートで1位を獲得しました。
「Venus」 バナナラマ
「Venus」 ショッキング・ブルー
個人的にはユーロビート史上最重要作品と考えています。もちろん、大ヒットした事もですが、それ以上にカバーであった事が重要です。過去の名曲をSAW流にアレンジする事によってユーロビートとはどういうものかが明確に示されています。これを聴いて、ユーロビートがどんな音楽か掴めた人は多かったでしょう。
そして、同じ事を他の名曲にすれば、ヒットに繋がる可能性があるというメソッドを見せたと考えています。例えば、同じ1986年の後半、キム・ワイルドがスプリームスの名曲「You Keep Me Hangin` On」をユーロビートアレンジで全米1位にしています。これは彼女の弟、リッキー・ワイルドがプロデュースなので、アメリカで売れたのはSAWだけじゃないとの声が聞こえそうですが、これは明らかにSAWのそのメソッドで作られたと思っています。先に言っておきますが、SAW以外でアメリカ進出したアーティストが全くいない訳ではありません。ポツポツ単発ではありました。例えば、SAWと組む前にサマンサ・フォックスなどは売れていました。とは言え、単発で売れたのもイギリスのアーティストばかりで、その他のヨーロッパの国々からは売れていません。
「You Keep Me Hangin` On」 キム・ワイルド
「You Keep Me Hangin` On」 スプリームス
さて、ユーロビートがどんな音楽か示したとは言え、「Venus」は明らかに「You Spin Me Round」とは全く異なるサウンドに仕上がっています。SAW作品はどれも似通ったとの批判はあると思いますが、バナナラマとデッド・オア・アライブが似ているとは到底思えません。ドラム、ベースの部分はダンスミュージックであり、正にユーロビートの核でありますから、同じでいいと考えましょう。
バナナラマとデッド・オア・アライブの違いにSAWの作品だけがアメリカで成功出来た理由もあると思います。もちろん、彼らがロック先進国、そして英語圏のイギリスの出身だったからという前提ですが、彼らのサウンドメイクは他のユーロビートのプロデューサー、アーティストよりバリエーションに富んでいます。変な言い方ですが、彼らのシンセの音には凹凸があって、ブラスやストリングスの音を的確にシンセに置き換えている様に思えるのです。残念ながら、他のユーロビートのアーティストたちは単にシンセの音を重ねていて、同じような曲、と言うより同じ様な音ばかりに聴こえてしまいます。
例えば、同じ頃、ヨーロッパや日本でも人気となったユーロビートのアーティストにイタリアのマイケル・フォーチュナティがいます。彼の「Give Me Up」はアメリカを除く世界中でヒットしましたが、これこそがシンセで彩られたユーロビートという曲です。私はこの曲が嫌いではありませんが、どうしても平面的なアレンジに聴こえてしまいます。
「Give Me Up」
ちなみにバナナラマの「Venus」に続くシングルの「I Heard A Rumor」は「Give Me Up」に酷似しています。これは「Give Me Up」に触発されて書いたというよりは、マイケル・フォーチュナティ側から似せて欲しいとの要望があったと聞いています。彼のアメリカ戦略を考えて、話題作りをしたかったのでしょうか。いずれにせよ、「I Heard A Rumour 」は全米3位まで上がりましたが、「Give Me Up」はアメリカでは売れませんでした。「I Heard A Rumour」はSAWにしてはそういう意味でちょっと平面的なアレンジに感じますし、普通に「Give Me Up」の方がいい曲だと思いますけど。
「I Heard A Romour」 バナナラマ
その後、バナナラマはユーロビート路線を突っ走りましたが、ヒットはここまででした。SAWのアレンジもやや雑になって行った様に感じます。それでも、「Love In The First Degree(第一級恋愛罪)」などはポップで素敵な曲で、私の中ではバナナラマの最高傑作です。
「Love In The First Degree」
バナナラマが忘れ去られた1988年に、SAW プロデュースで二人の新人がデビューします。それがリック・アストリーとカイリー・ミノーグです。リック・アストリーは、プレスリーのバラッドの様な優しい声とデル・シャノンの様な風貌が50年代を思わせながらユーロビートという面白いシンガーです。「Never Gonna Give You Up」「Together Forever」が連続して全米1位になります。遂にSAWは自分たちのオリジナル作品で全米制覇を果たしました。つまりはこの2作品が彼らの頂点と言っていいと思います。私も好きですね、この2曲。選ぶ必要もありませんが、どちらかと言えば、「Together Forever」です。
「Never Gonna Give You Up」 リック・アストリー
「Together Forever」 リック・アストリー
丁度、同じ時期カイリー・ミノーグもデビューします。少し彼女の方が早かったでしょう。世界デビュー曲は「I Should Be So Lucky(ラッキー・ラヴ)」です。ベタですが、キラキラなポップスです。私も大好きな一曲です。SAWの母国イギリスでは1位になりましたが、全米ヒットチャートでは28位に留まります。SAWとしては不満というか計算外だったかも知れません。アメリカでのセカンドシングルは「The Locomotion(ロコモーション)」です。実はこれが本来のデビュー曲で、カイリーの母国オーストラリアでヒットしたため、SAWのプロデュースで世界デビューとなったのです。その別人のプロデュースした「Locomotion」を改めてSAWがプロデュースします、正に「Venus」の時のメソッドをもう一度使ったのです。それが全米で3位になり、全米進出に成功しました。
「I Shold Be So Lucky」 カイリー・ミノーグ
「The Locomotion」 カイリー・ミノーグ
ここら辺までが彼らの全盛期、そして、ユーロビートの全盛期でしょう。1988年にはアメリカからテイラー・ダインのようなユーロビートサウンドが生まれました。
ユーロビートはその後ハウスなどの隆盛で廃れたと言われたりしますが、ハウスはユーロビートと同じ音楽とも言えます。重低音をより強調したマイナーチェンジと考えています。だから、SAWの人気が衰えた後もユーロビートの息吹は生き続けたと思います。本格的にユーロビートがダンスミュージックの主役でなくなるのは、ヨーロッパでもヒップホップの人気が大きくなったからだと個人的には考えています。あまり誰かから同意された事は無いのですが。
さて、SAWプロデュース作品は上述のものだけではありません。上記は主にアメリカで成功したものだけを選んでいますから。彼らのプロデュースでヨーロッパでのみ成功したアーティストは沢山います。ジェイソン・ドノヴァン、メル&キム、ソニア、シニータなどなど。中でも私の好みはシニータの「Toy Boy」です。日本でもヒットしました。
「Toy Boy」 シニータ
私は彼らの筆によるキラキラのポップスが一番好きなんです。すみませんね、ベタで。このブログでも何度か言っていますが、ロックよりポップスが好き。SAWは「Love In The First Degree」「I Should Be So Lucky」「Toy Boy」あたりですね、やはり。でも、残念ながら、彼らのキラキラはアメリカでは好かれなかったようです。恐らく、評論家筋や辛口のファンにも。でも、日本ではそういう曲が人気です。次回は日本でカバーされ、ヒットしたユーロビートの話です。
それでは、また。
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「頑張ってって言わないで」
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