ムー大陸です
前回、アイドルの歴史は、「歌が下手な歌手をどこまで許容するか」が拡大してきた歴史であるという観点で60年代から70年代を振り返りました。
オーディション番組がスタートして、アイドルの多様性は一気に広がりましたが、その歌唱力は全体的に下降傾向にありました。また、個別には浅田美代子氏が「ここまで許容した」最大の爪痕となったと書きました。歌唱力では大場久美子氏、能瀬慶子氏あたりが底辺でした。
しかし、80年代は更に激動の時代となります。
山口百恵氏が引退し、入れ替わる様に松田聖子氏がデビューします。彼女はデビュー時から歌が上手く新女王の座につきました。同年デビューの岩崎良美氏、河合奈保子氏らもデビュー時から歌が歌えていました。ただ、彼女たちの存在はアイドルの歌唱力が向上した事を意味しているのではありません。また、ファンが歌唱力重視に傾いたのでもありません。もちろん、ファンは歌が上手い歌手が好きなんですが、下手でも許容することを既に覚えてしまっているのです。それが私の言う爪痕です。ですから、この頃にはどういうのが来ても驚かないくらいになっていたでしょう。
その後、花の82年組と呼ばれるアイドル大豊作の年がやって来ます。大豊作と言っても、それは人気の面でそうなのであって、歌唱力の面から見ると、豊作の分下手な歌手も混ざっていました。80年代もう一人の女王・中森明菜氏は歌唱力充分でしたが、その他には歌に難ありというアイドルもいました。特に松本伊代氏は下手でした。彼女も人気でしたから、爪痕残したと言えます。
この頃、パンジーという女性アイドル3人組がデビューしました。真鍋ちえみ、北原佐和子、三井比佐子の3人です。彼女たちはそれぞれソロでも歌手活動をしていましたが、全員下手なんです。そして、その中でも三井氏の歌は衝撃的です。レコードでは修正入りますから、それほどでもありませんが、テレビ出演などの生歌は凄いですね。70年代の浅田美代子氏を遥かに超えていると思います。個人的には彼女がアイドル史上最も下手な歌手だと思っています。感覚で申し訳ないですが、合ってる音の方が少ない?
「月曜日はシックシック」 三井比佐子
ただ、彼女はそれほど売れていなかったので、大して多くの人の記憶に残っておらず、大きな爪痕とは言えないでしょう。
この頃になると、アイドルが下手なのはやむを得ないとの認識も普通です。個別の例を挙げると、沢口靖子氏は女優でしたが、歌手活動も行っていました。下手でした、本当に。科捜研の女の黒歴史です。デビュー後4年くらい後の映像です。
「Follow Me」 沢口靖子
安田成美氏もいますね。「風の谷のナウシカ」凄かった。極端な言い方をすると、毎回サビのメロディが違った印象です。
「風の谷のナウシカ」 安田成美
まぁ、二人とも歌手ではないので、やむを得ないところですか。ナウシカのヒットの分、安田氏の爪痕の方が大きいでしょう。
一方で、80年代に入ると、男性アイドルについては大きな転換期を迎えます。長らくトップを維持して来た新御三家からたのきんトリオ(田原俊彦、近藤真彦、野村義男)へ世代交代がなされます。何と言っても、田原俊彦氏の歌は衝撃的でした。ナチュラルにフラットする下手さ加減はさすがに閉口しました。
「哀愁でいと」
近藤真彦氏の歌も上手い訳ではありませんでしたが、それが普通に思えるほど、田原氏の歌は下手でした。
何しろ彼は本当にトップの男性アイドルでしたから、残した爪痕は大きいです。歌唱力の面で、新御三家から大きく劣化するとともに、彼らの後に続々と登場するジャニーズの男性アイドルのハードルを大きく下げたことを意味します。田原氏のずっと後輩となるSMAPの中居正広氏の登場は、ある意味田原氏の下げたハードルから生まれていると考えられます。ただ、田原氏と違って彼はグループの歌に埋没することが出来ました、それが救いでした。
さて、ところが、そんな80年代前半の流れも過去になってしまう新たなムーブメントが起こります。それが1985年のおニャン子クラブの登場です。彼女たちは一躍人気者となり、おニャン子クラブ本体のみならず、多くのメンバーがソロ活動、別グループ活動を行い、ヒットチャートを席巻する勢いでした。
ただ、歌唱力という面では、全く評価出来ません。何しろ、彼女たちは素人です。普通の女子高生が部活動のノリでテレビに出て歌を歌っているのだから、歌唱力を期待するのは無理な話です。と言うより、あまり歌が上手いとプロっぽくて親近感が湧かないから、別にそんなに上手くなくていいという思いすらあったと思います。
その上、問題なのは人気があったのみならず、数が多かったことです。何組も同時にデビューしていましたから、ヒットチャートは彼女たちに占拠されるような印象でした。
同時に、それまで形式的とは言え、行われて来たデビュー前のレッスンも消え去り、素のままで素人の歌を聴かせるという事を許容したのです。実際には多少の準備はしたのでしょうが、そうは思えない程度にしか効果が見えなかったという事です。遂に「ここまで許容する」のステージは更新され、最早これ以上の更新は無いところまで到達したと言っていいでしょう。何しろ、準備も何もしないで、素人が下手な歌を聴かせてもいいと認めたのです。その後、数々のアイドル、例えば、中山美穂、南野陽子、浅香唯、モーニング娘。やAKB48と言った人気者が登場しましたが、おニャン子クラブより下手だと感じることは無かったし、遥かに訓練されていたと思ったことでしょう。
ちなみに、おニャン子クラブ関連で、誰が最長不倒距離を更新したかと言えば、国生さゆり氏、新田恵利氏、立見里歌氏、吉沢秋絵氏が群を抜いて下手だと思います。彼女たちは全員70年代の浅田美代子氏を遥かに凌駕するレベルです。彼女たちがおニャン子の四天王です。
「冬のオペラグラス」
「私は里歌ちゃん」 ニャンギラス
「季節はずれの恋」 吉沢秋絵
四天王の一は誰か?一般的には新田氏か立見氏を推す声が強いです。立見氏はニャンギラスというグループでもあったのと、そもそもが歌が下手なことをネタにしたお笑い系なので、新田氏を一番としたいところです。しかし、個人的にはダークホース吉沢氏が1番だと思います。
まとめです。
歌唱力でランキングするなら、
という印象ですが、
爪痕の大きさ、一般層への影響で考えるなら、
①おニャン子クラブ②田原俊彦③浅田美代子④大場久美子⑤松本伊代
あたりでしょうか。
①はソロまで含めた塊で考えました。
さて、ここまでアイドルの歴史は「歌が下手な歌手をどこまで許容したか」の歴史だと書いて来ました。でも、それは批判ではありません。前回、冒頭に書いた様に肯定的に捉えています。
日本人は世界一下手な歌手に優しい。
よくK-POPとの比較で、日本のアイドルは歌もダンスも下手だと言いますね。それはその通りでしょう。あるいは、アメリカにはアイドルという存在はいないなどと言います。確かにアイドル的なシンガーはいました。60年代のコニー・フランシスも70年代のオリビア・ニュートンジョンもその要素は充分でした。しかし、素人の10代の若者に即席レッスンをかましてデビューなんてアメリカでは通用しないでしょう。
これらは何を意味するか?
日本人は本当の歌の良さが分からない?
違います。
外国人は歌が下手な歌手の魅力が分からないことを意味するのです。彼らはまだ歌手は歌が上手くなきゃダメだと思っているんです。実に気の毒です。
日本人は確かに歌が下手な歌手に寛容です。でも、歌が上手い歌手も好きです。しっかり使い分けているんですよ。私たちはアイドル歌手という楽しみを知っているんです。私はアメリカ人に教えてあげたいですよ、歌手の魅力は歌唱力だけじゃないっていうことを。歌を楽しみたければ、ロックバンドでもブラックミュージックでも聴けばいいんです。でも、彼らすら持っていない魅力を持っているのがアイドル歌手というものです。楽しまない手はありませんよ。
それでは、また。
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「カラキリクルコロ」
「NSA」
「下剋上」
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