ムー大陸です
さて、今回は「私が愛した郷ひろみ」の3回目です。
遂に少年郷ひろみは大人になりました、歌詞の上で。
では、今後、彼は歌手としても大人への脱皮を図るのでしょうか?
もちろん、その方向性は間違いないのですが、早急にそれを推進しようとは思っていなかったように思えます。それを前回同様、彼が発表したシングル盤のA面の曲を追いかけながら見ていきましょう。
⑨「君は特別」
前回も書きましたが、実は「君は特別」はデビューから2年以内に出ています。ですから、本来は私が言うところの「デビューから2年間の黄金期」に含めるべきものです。その上、この曲の歌詞は「君は特別だから、うちにおいでよ」というもので、前作「花とみつばち」で歌ったセックスを無邪気に歌う路線の延長です。しかし、この2作の間には決定的な差があると考えています。それが郷ひろみの歌唱力です。3か月の時間が流れていますが、その3か月で驚異的に歌が上手くなったわけではないでしょう。積み重ねてきたものが出始めたということだと思います。もちろん、少年ぽさは多分に残っています、だから過渡期なんですけど。そして、次作があの名曲「よろしく哀愁」なので、そこから過渡期と考えるのがスッキリするのですが、あくまで歌唱を考えるとこの曲から少年ぽさが減退しているのが分かります。ちなみに筒美先生の曲は相変わらず素晴らしいです。
⑩「よろしく哀愁」
そして、昭和歌謡を代表する一曲と言える名曲の登場です。郷ひろみの全シングルの中で最大の売上。意外かも知れませんが、唯一のオリコン1位獲得曲です。つまり、この曲は大成功したんです。その理由は筒美氏の曲に負うところが大きいです。若い方も含めて聴いたことがあるのではないでしょうか。そして、歌詞。これが従来の単なるキスやセックスだけを歌ったものではなく、「一緒に住みたいよ、出来るものならば」という歌詞からも分かるように、生活感が出てきました。大人の愛へ踏み出した感があります。そして、サビの「会えない時間が愛育てるのさ」の名フレーズ。作詞は岩谷氏ではなく、安井かずみ氏です。
この路線で行けば、郷ひろみの大人の歌手への変身もそう遠くはないかも知れません。もう彼も19歳になります。そろそろ考えてもいいはずです。
⑪「悪い誘惑」
ところが、「よろしく哀愁」があまりにもヒットしたためにチームは考えました。『筒美先生、もう一回「よろしく哀愁」みたいな感じでいきましょう』と。一聴して分かりますが、この曲は「よろしく哀愁」にそっくり。それもわざとやってますね。歌詞は年上の女性に導かれて大人の世界を知る青年(少年?)の歌です。とは言え、そこは今回は重要ではなくて、「よろしく哀愁」路線に注力し過ぎて、他はあまり進展がありませんでした。
⑫「花のように 鳥のように」
さすがに3曲続けることは出来なかった。そして出したのがこの名曲です。「よろしく哀愁」のような知名度はありませんが、伍するほどの素晴らしい作品になってます。オリコンでも2位まで行ったはずです。ブラスをフィーチャーした3連リズムの跳ねるような明るい曲調ながら、別れてしまった彼女への思いと復縁の願いを歌ったものです。普通に青年の後悔を歌えるあたりは歌唱力の充実が伺ええますし、このまま大人路線へ進むことが可能なところまで来ました。
⑬「誘われてフラメンコ」
3か月に1枚のペースでシングル盤を出すと、この曲が10代最後のシングルになります。1974年から1975年の前半にかけて連続して大人びた楽曲をヒットさせました。そして、年末の賞レースを見据えた楽曲ともなります。このターニングポイントに選択したのは「誘われてフラメンコ」。これは一体どういう判断だったのでしょうか?
「大人びた楽曲が続いたので、次は派手に」という意図があったのは分かります。ただ、歌詞の内容的には若い二人が部屋でセックスするという「花とみつばち」の頃へ戻っています。多少大人びたフレーズがあるものの、「誘われてフラフラ、乱されてユラユラ」の衝撃が強すぎますし、そこからタイトルが「誘われてフラメンコ」、フラメンコでもないのに。これは明らかに大人路線からの後退です。そして、重要なのは歌唱の面で大人になってきた郷ひろみと「花とみつばち」の路線にはギャップが出てきたということです。この曲で彼は「真夏の~~~ぉ」と声をひっくり返して歌っていますが、デビューから2年の間の彼ならもっと無邪気に仕上がったと感じざるを得ない不自然さというか、やり過ぎ感があります。いや、誤解しないでほしいのですが、私はこの曲大好きで、彼のディスコグラフィでTOP10に入れるでしょう。それでも、もう少し大人路線に舵を切っても良かったという思いは捨てきれません。ただ、この派手な曲はヒットしました。オリコン2位まで行きました。
⑭「逢えるかもしれない」
そして、謎の楽曲登場です。この曲は演歌です。いきなり演歌。勝手に推量しますと、前作「誘われてフラメンコ」で少年への回帰路線を取って、ヒットはしたものの、やはり大人の歌手としての評価は得られなかった。年末に向けた賞レースのノミネートでも芳しい結果が得られていない。この年は野口五郎が大きく成長した年で、彼は「私鉄沿線」でレコ大にノミネート、有線大賞まで獲得している。西城秀樹はすでに前年「傷だらけのローラ」でレコ大ノミネート、それも2年連続で果たしている。つまり、新御三家の他の二人は順調に大人の歌手へと成長し結果を出している、少し水をあけられた形になっているのです。そこで、無理矢理大人路線へ舵を切ったのが、この演歌です。ただ、歌詞的には年上の女性に捨てられた悲しみを歌っており、少年路線の名残はあります。今となっては理解に苦しむ路線でしたが、大人路線=演歌というのは当時ではあり得なくはなかったのでしょうか。
⑮「バイ・バイ・ベイビー」
通常のシングルの間隔より1か月早く、前作から2か月で発売しているし、次作が1か月後、つまり通常ローテで出ているので、何かの企画モノだったのか。ベイ・シティ・ローラーズのカバー(オリジナルはザ・フォーシーズンズですが)なので、権利関係含めて多少そういう事はあったでしょう。従って、この曲は筒美氏の作品ではありません。西洋の同じアイドル、グラムの曲をカバーするというのはアリだとは思います。ただ、これも前作から続く大人路線への迷走の一部と考えるべきなのでしょう。演歌がダメなら、洋楽カバーみたいなところはあったのかな。歌詞には従来なかった既婚女性との不倫が出てきてますし。残念ながら、あまりいい出来とは思えません。ローラーズの方を聴きましょう。
ということで、「よろしく哀愁」の時は大人路線への脱皮がスムースに図れそうな予感があったものの、ターニングポイント「誘われてフラメンコ」以降迷走が続きます。
続きは次回。
それでは、また。
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